ペレグリン・ポートフォリオ・ウォッチ2023年9月号
Peregrine Portfolio Watch
2023年9月号 Vol.40
幻に終わるか?米経済軟着陸予想
【先月の投資環境】マーケット・コメント
8月の株式市場は全体として上値が重い展開でした。上旬に発表された主要企業の4~6月期決算が市場予想を上回っても株価は冴えない動きとなり、中旬までは一方通行的に下落傾向となりました。呼応するように債券市場でも金利が上昇、中国や欧州の景気懸念も重しとなり、米国経済のソフトランディング(軟着陸)を前提にした成長期待にやや揺らぎが見えたような展開でした。
資金流入が顕著なのが米国の債券です。日本国内の投資家においても、1~6月の米中長期債の買越額は半期として過去最大の13兆円に達したそうです。背景として、利上げサイクルが終盤に入ったとの観測から投資妙味が増していることが挙げられます。
株式市場に目を向けますと、冒頭で述べましたように、第2四半期の決算を終えて、大手ハイテク企業ではIT大手のアップルなど決算発表後に株価が下がるケースが目立ちました。他にも、ネットフリックスやマイクロソフトも一株利益の予想が市場予想を上回りましたが大きく下落しました。
要因の一つとされるのが割高感です。アップルなど主要なハイテク企業は、中長期の成長期待が先行して株価に織り込まれる傾向なため、今年に入って株価や利益予想から見た投資尺度が大幅に上昇していました。米主要株価指数であるS&P500種株価指数で見ましても、予想PER(株価収益率)は19倍台と、昨年10月の15倍台から大きく切り上がっています。
米国の長期金利の上昇を半ば無視するような形で株価と投資尺度が全体的に上がりすぎている、と捉えられたのでしょう。長期金利が上昇すると、将来想定される利益を現在の価値に換算する割引率も高くなるため、高い利益成長にたとえ変化がなくても、織り込んでいた株価の割高感が数値上表面化してしまいます。
加えて足元の業績は堅調でも、将来への不安がないとは言えない、ということなのでしょう。アップルを例にしますと、インフレが続く米国などでスマホの中古市場が育ち、新商品への需要が減退してきているようです。
また、米国以外の国の景気減速も気になるところです。電気自動車(EV)大手のテスラにおいても、中国の景況感が冷え込んだままであれば販売台数は伸び悩みます。現地大手との価格競争で利益率はさらに低下する恐れもあります。
欧州景気も同様です。アメリカン航空やデルタ航空も決算直後に下落しましたが、欧州路線の復調が直近の業績を支えているゆえに、経済の今後の減速懸念は旅客需要の腰折れにつながることが連想されたと考えられます。加えて原油高も航空株には逆風です。
8月を終えた今も、利上げの打ち止めを背景にした米国経済のソフトランディング、というベストシナリオへの道筋はまだはっきりとはせず、今後の経済指標の「データ」次第というところなのでしょう。
■ポートフォリオの状況について
8月の当ポートフォリオはゆるやかな上昇傾向が継続し、設定来高値を更新したことで、6月以降から続いていた狭いレンジ内での動きをようやく上抜けるような動きとなりました。
8月月間では、中旬に全体的に下落しましたが月末にかけて戻る動きとなり、日本株式は月内の下落から反発し、米国株式はわずかに上昇しました。また、ポートフォリオの上昇に寄与したのが先進国社債です。7月の下旬に先進国外国債券の投資比率を見直すべく、新規に米国を中心とした投資適格の社債に広く投資を行うアクティブファンドを選定して組み入れを行いました。
足元では米国債の金利上昇に伴い、ベースとなる金利が上昇しているため組み入れには好機と判断しました。さらに、社債発行企業の業績も堅調となると、社債の信用部分の評価が高まることが期待できます。8月月間では新規に組み入れました先進国社債ファンドがベストパフォーマーとなりました。さらに、ゴールドや原油といったコモディティの価格も上昇し、全体としてポートフォリオは0.8%の上昇となりました。
月間のアクションとしては、上記の先進国社債ファンドの新規組入れに加え、リバランスの観点から投資比率を大きく落としていた日本株への投資比率を若干引き上げるため、8月中央の下落局面でTOPIX連動型のインデックスファンドをわずかに買い増ししました。目先はリバランスの観点から米国株式と社債ファンドの追加組み入れ増加を検討していく方針です。
■今後とポートフォリオについて
8月中旬の調整局面から反転のきっかけとなりましたのが、下旬のパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の講演でした。事前の懸念ほど利上げ積極的(タカ派的)ではないと受け止められ、安心感が広がった形です。ただ、それだけで安易に市場が楽観へと傾くなら、梯子を外される可能性も念頭に置いておくべきでしょう。
講演には米経済の過熱への強い警戒感がにじんでおり、FRBが景気を冷やすまで金融引き締めを続けるなら、米経済のソフトランディング(軟着陸)は幻に終わりかねません。
世界の注目を集めたパウエル議長の25日の講演は、「金融政策はデータ次第」というお決まりの文言を繰り返し、市場では「警告もサプライズもない」との受け止められ方となりました。とはいえ、金融引き締めに前向きなタカ派的なトーンは、特に次の二つの発言から明らかに強まったと言えます。
「トレンドを上回る成長が続くという新たな証拠があればインフレのリスクが高まり、一段の金融引き締めを正当化するだろう」「労働市場の逼迫が和らぎそうにないとの証拠があれば、政策対応が必要になるだろう」。7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見の義朝発言では、「政策はデータ次第という姿勢を続ける」という中立的な表現でしたが、今回は米景気が過熱している事例を挙げ、一段の引き締めが必要になるかもしれないと踏み込んだ形です。
実際、米経済はこれまで懸念されていた減速どころか、むしろ再加速しているとの認識が広がってきています。アトランタ連銀は、2023年7~9月期の実質経済成長率が前期比5.9%増と新興国並みの高成長になると予想しました。これにはさすがにパウエル議長も驚いたことでしょう。
これを受けまして、米国野村証券のエコノミストは、「FRBが物価見通しに基づいて先行きの予測を重視する政策運営に戻ることを示唆したのではないか」と指摘しています。というのも、FRBは昨秋以降、「実際の物価指標を確認したい」と公表される過去のインフレデータを重視する姿勢を繰り返してきたからです。コロナ禍で「高インフレは一時的」と甘い予測を立てて外してしまった反省からです。
しかし米経済の強さが続く限り、インフレがいったん落ち着いたとしてもまた再燃するリスクはあるわけで、たとえ足元のインフレ率が低下しても景気や雇用が強い限りは金融引き締めを続ける可能性がある、と言えます。
今月の利上げは見送られそうですが、景気過熱次第では11月か12月の会合で追加利上げの可能性はあります。今月のFOMCで示される来年の政策金利見通しでは、4回の利下げを予想した6月会合から利下げ回数が減る、つまり高金利が長期化する公算が大きいとの予測に繋がります。インフレ率が低下する中で政策金利が高止まりすれば、名目金利からインフレ率を差し引いた実質金利は上昇が続くことになります。これは株価を押し下げ景気を冷やす要因になります。
パウエル議長はインフレ再燃の可能性を減らしたいですが、景気を冷やしすぎるリスクを避けつつも、かなり冷めないと物価目標の安定的な達成はできないと考えています。とすればそこに米経済の軟着陸が幻に終わる可能性も拭えません。足元では8月の雇用統計などを通じて労働市場の過熱感が薄れてきたと見て、軟着陸への期待が高まっているとのコメントも目にします。雇用減速は景気軟着陸に向けた重要な要素です。
賃金・物価高の鈍化が確認できれば、FRBは利上げ打ち止めを決めやすくなります。過度な引き締めで雇用を大きく損なう事態を回避できます。利上げの打ち止めは米国株の追い風にもなります。いよいよ米経済が着陸態勢に入っていくならば、運用ポートフォリオはしっかりシートベルトを締めて、来る着陸に備えるのが良いと思われます。
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