ペレグリン・ポートフォリオ・ウォッチ2023年7月号
Peregrine Portfolio Watch
2023年7月号 Vol.39
『ウィークフレーション』下で光る債券
【先月の投資環境】マーケット・コメント
米連邦準備理事会(FRB)が年内に利下げに踏み切るという市場の観測が急速に後退してきています。6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)などで金融引き締めに積極的な姿勢があらためて鮮明になったためです。公表された6月のFOMC議事要旨は、高インフレの抑制に自信が持てない参加者の不安がにじむような内容で、既定路線とされていた6月会合での利上げ見送りについても、議論の過程で何人かから反対意見が出ていたことが明らかになりました。
「ほぼすべての参加者が年内の追加利上げを適切と判断した」と、議事要旨では利上げ積極派の意見が目立ったことで、6月以降上昇傾向にあった米国株式などは7月に入って下落の動きに転換しました。一方で金融政策の先行き見通しに反応しやすい米2年物国債の利回りは上昇(価格は下落)し、一時5%を超えたことで2007年以来の水準となりました。利回りが高いほど、投資家が金融引き締めを織り込んだことを示します。
「2023年後半から仮に景気後退に入っても、FRBは年内は利下げしない」という予想も根強いです。3月以降に相次いだ米地銀破綻の影響も、いまのところは当初想定されたほど大きくない可能性が意識され始めています。融資に慎重になる銀行が増えれば企業の資金調達が難しくなり、利上げと同じ効果をもたらすことになりますが、FOMCの参加者は、これまでのところはわずかな影響しか与えていない、と指摘しています。
まずは利上げが7月とその次の9月会合まで続くかどうかです。利上げを止めても、利下げ転換して政策金利を下げない限りは金融引き締めは続きます。市場は6月以降の変化を見て、引き締めの長期化リスクに備える意識を強めているようです。
■ポートフォリオの状況について
6月の当ポートフォリオはゆるやかに上昇傾向となり、設定来高値更新となる12,400円台に乗せました。6月後半から7月にかけても12,400円を挟んだ動きを保っています。
米金利水準は利上げの継続を意識して上昇傾向となり、同時に深刻な景気後退リスクもやや後退している印象から、債券の価格が下落(利回りは上昇)、株式は上昇となり、商品指数も反発傾向であることから、債券の下落分を埋めてポートフォリオ全体を押し上げました。
当ポートフォリオの過半を占めるキャッシュについては、その割合を本来引き下げるべきところ、モデルポートフォリオのシンプルなインデックスファンド中心の運用方針を受けて現状維持を続けておりますが、かねてより検討しています投資適格債クラスの組み入れにはベターな水準と判断しており、買い付け候補となる投資信託の選別を急いでおります。
インフレが長期化する状況において、より適合するポートフォリオの配分にシフトするべく、株式については引き続き投資環境や経済情勢を鑑みた株価低下局面を待っている状況です。一方で金利動向と経済情勢を考慮してREITへの投資は引き続き見送る方針です。
■今後とポートフォリオについて
今年も前半(1月~6月)が終わりました。世界の市場を振り返りますと、2つの資産の高騰に、投資マネーの不安心理も反映されていたのではないかと考えます。まずは年初来の上昇率が80%を超え、主要資産と比較してもトップクラスだったビットコインです。ビットコイン高は、政府や当局への不信感を映している、という見方もあるでしょう。例えば景気の悪化や米シリコンバレーバンク(SVB)の破綻で高まった不安を背景に、金融を引き締めてインフレを抑制できないのでは、という懸念です。
米テスラを率いるイーロン・マスク氏は昨年、インフレで目減りするドルを避けるべきだと主張し、ビットコインへの執着を強調したこともありました。元々多額の債務を抱える借り手にとって、借金の価値が目減りするインフレはプラスに働きます。裏を返せばインフレが進むと借金への抵抗が少なくなり、各国政府などマネーの借り手が借金を増やしていくことへの警戒から、ビットコインなどに流れやすくなるという連想ができます。
もう一つはハイテク株式です。米S&P500種株価指数の500社を、仮に「GAFAM」にテスラ、エヌビディアを加えた「テック7社」とそれ以外の「主要493社」に分けて株価指数化した試算によりますと、上昇率はテック7社が60%に迫る一方で主要493社は10%にも届かず、主要ハイテク株式の突出ぶりが明らかです。一般的にハイテク株式はリスクが意識されるような局面では下げやすい景気敏感株とされます。しかしこの7社は、景気が悪化しても成長する生活必需品のような側面もあります。
「GAFAM」はインターネットやソーシャルメディアを社会インフラに育て、テスラは電気自動車(EV)を、エヌビディアは人工知能(AI)をインフラとして普及させつつあります。景気に関係なく成長する力は、業績や株価が裏付けています。極端かもしれませんが、今のハイテク株高は、リスクを慎重に見る「安全資産買い」のマネーが支えているのかもしれません。
このように考えますと、インフレ対応として実物資産のゴールドも、引き続き有力な保有対象になり得ると言えるでしょう。それにしても、米欧のインフレ率がなかなか下がらず、金融引き締めの終着点が見通せない状況が継続しています。想定より長引くとすれば、あと1年から2年くらいは物価上昇率や金利が高い状況が続くかもしれません。
実際に株価などが乱高下するかは分かりませんが、株価などの変動率(ボラティリティ)や不確実性は高いままで、米連邦準備理事会(FRB)が利下げへの転換に動き出す明確な兆候が見え始めるまでは、大きくリスクを取れないと考える投資家が多いと思われます。
世界経済は、いまや二つの力がぶつかり合う局面と言えます。その二つとは、世界経済、とりわけ米国経済が非常に好調で、従来の予想通り景気が減速せず、今年に入っても依然強い状況であるという力と、金利上昇による与信環境の急激な悪化が総需要の下押しに働き、信用収縮の動きが顕在化するという力です。
景気後退の様相が出てくるとすれば今年後半以降が正念場になりますが、労働市場の堅調さを踏まえると、後退の可能性は小さくなっているのかもしれません。とすると、後退までいかなくとも弱まった経済成長と2%超のインフレ率が続く状況が想定されます。そのような状況(現象)を、ある米運用大手は『ウイークフレーション』と呼んでいます。
今後、金融引き締めの悪影響がより明確に出てくることを想定する中で、有望な投資機会は、「政策金利が高くとどまる中で投資適格級の社債の価値が高い。資産の再配分(リバランス)において債券への投資が増加している」とのことです。政策金利よりも債券市場における金利水準は将来の利下げ転換を織り込んで先に下落します。債券市場の見通し通りに金利が低下するか、それはいつか、明確に言い当てることはできませんが、債券への配分をしっかり検討するよい局面であることは確かなのではないでしょうか。
■ディスクレーマー(ご留意事項等)
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