ペレグリン・ポートフォリオ・ウォッチ2024年4月号
Peregrine Portfolio Watch
2024年4月号 Vol.43
【2024年1~3月の振り返り】マーケット・コメント
2023年は、急速な利上げが進む中で、その先の米欧同時利下げの予測動向が投資マネーを大きく翻弄した一年でした。2024年に入って金融市場では、米景気の大方の想定以上の底堅さや依然継続するインフレ懸念を背景に、米連邦準備制度理事会(FRB)の早期利下げ観測がずるずると後ずれする形で米金利が反発の動きとなりました。公表された政策金利見通しでは、元々年内3回としていた利下げ予想を維持したことなどを受けて、投資家のリスク選好姿勢が強まった形です。
これを受け、債券市場における金利上昇の動きにもかかわらず、堅調な企業業績や特にAI関連企業の成長期待等を背景に、日米欧の株式市場は史上最高値を更新しました。特に日経平均株価の史上最高値更新は多くの方の記憶に残っていることでしょう。日銀が金融政策決定会合でマイナス金利の解除を決めたものの、当面緩和的な金融環境が続くとの観測もあり、高値更新後も日経平均株価は4万円を挟んでの展開が継続しています。
為替については、日銀の政策変更への思惑から一時的に円高に振れるだろうという大方の見通しに反して、米金利上昇を受けたためか再び円安が加速、日本政府による為替介入が実施されるか緊張する局面もありました。先行きについては金融市場のリスク選好度が重要になると思われます。インフレと金利上昇による大きな景気後退(いわゆるハードランディング)は回避されることが周知となり、米金利市場はゆくゆく低下傾向または4%水準を切る水準のレンジ圏での動きとなる見通しが実際となれば、米ドル安方向に向いていく可能性があります。
ただし、資金の流れの面からみて構造的に大幅なドル安円高にはなりにくいでしょう。米国が緩やかな利下げに向かい、日本は追加利上げの可能性がある状況では、金融政策の方向性の違いから、どちらかといえばドル安円高方向に向く可能性を念のために考えておきたいところです。史上最高値付近で推移する米株価ですが、ではこの水準を投資家ではなく経営者はどう見ているのでしょうか。一つの情報ではありますが、経営者は一般的に当該業種や当該企業への知見が一般投資家よりも深く、株価の水準に対する判断に合理性が高いとされます。
実は、今年に入って米経営者の自社株の売買において、売りが買いを大きく上回っています。著名な経営者では、メタ・プラットフォームズのマーク・ザッカーバーグ最高経営者(CEO)やアマゾン・ドットコム創業者のジェフ・ベゾス会長などが相次いて大規模に売却したそうです。ザッカーバーグ氏は、21年11月に売却を止めていましたが、2年ぶりに再開したことになり、21年秋と今回の再開時のメタの株価を比較すると、330ドル前後と凡そ同水準だそうです。株価が回復したために売却を再開したのではとみられました。その後メタの株価が450ドル~460ドルまで上がると売却のペースを一気に加速されたと報じられています。他にも、保有株は売らないとしてきた米金融大手JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOは今年2月に金額にして約1億5,000万ドル分を売却したとされています。
米国では、企業経営者や取締役などの社内関係者が自社株を取引する際は、重要な非公開情報を知る前に作成した取引計画に基づいた実施が求められています。もちろんインサイダー取引を防ぐためです。それには売買の期間だけでなく価格の条件が示される場合があり、取引結果も開示する必要があります。経営者の自社株に対する判断と動向として、市場関係者の貴重な分析対象となっているわけです。一様に当てはまるわけではありませんが、過去の例を見ると自社株売買が売りに傾いた後に株価全体が軟調になるケースがあります。例えば21年の前半に自社株の売りが急増、その後22年3月にFRBが利上げを実施して相場は低迷しました。
自社株売りの増加が相場低迷のきっかけとまでは言えませんが、高値圏にある相場の「天井」に近づいているシグナルだとする意見もあります。あくまで一つの見方であり、社内関係者の売り情報が相場のタイミングとぴったり一致するわけではありませんが、長い期間で見ると自社を良く知るオーナー経営者が売った時期は株価が割高だったという例は確かにあります。経営者の動向を知るにはタイムラグが生じますが、その価格帯で売ることに意味があるのだろうと考えられることについては興味深い情報であることに変わりはありません。
■ポートフォリオの状況について
2024年1月から3月末にかけて、米金利が反発傾向となり、世界的な株高傾向から日米株価は史上最高値を更新、その他ゴールドや原油価格も上昇する展開でした。当ポートフォリオは、年初から3月末時点で5.1%の上昇となり、運用開始以来最高値を更新しました。年初からのアクションとしましては株価などの上昇を受けて2月末に日本株式の比率を少し落としましたが、3月上旬に米国株式の組み入れを4.5%ほど増加させ、中旬に日本株式の組み入れ比率を戻しました。
年明け以降株価の高値からの調整を警戒していましたが、流れに乗るために組み入れ比率を戻して全体としては維持している形です。これに伴い、キャッシュの比率は年初の44%から3月末時点では38.3%%に低下しています。
前回のレポートでは、「基本方針として米景気の軟着陸予想を支持し、株式の比率をある程度高位に保つ予定ですが、過度な金利低下の楽観論が修正される局面や弱い経済指標が出ることで景気不安への高まる局面も警戒し、株価が高い状況では柔軟な対応を取ることとする」と述べましたが、足元では景気の軟着陸予想の確度は高まりつつも金利低下予想のトーンも後退しており、引き続き高位な金利水準は株価への悪影響も考えられるため高値追いはせず、調整局面での買い増しを行っていく方針です。
その他では、コモディティは現状維持、債券についてはハイブリッド債への投資比率を下げていき、社債への投資を拡大させることと、世界国債への分散投資から米国超長期国債投資へのシフトを行うことで米金利の動向からリターン獲得の機会を積極的に狙っていく方針に転換します。今後も市場の変動率(ボラティリティ)が増加する局面には警戒が必要ですが、通常時ではキャッシュ比率は30%程度まで引き下げていく方針に変更はありません。
■ポートフォリオの基準価格推移(2019年12月~2024年3月31日)
■2024年3月31日時点のアセットアロケーション
■組入れ資産の状況
■今後とポートフォリオについて
2024年のマーケットをどうみるべきか、前回は金融大手の予想を参考に、景気減速下の株価上昇か下落か、景気の行方が市場にどう影響を与えるのかについて見方が分かれていることについて記載しました。強気派は堅調な企業業績を支えに株価は1割程度上昇するとしていましたが、足元で米主要株価指数のS&P500種株価指数は年初からすでに8%ほど上昇しています。しかしそもそも景気減速になるのでしょうか。この点についても見方が変化してきているように思えます。
2022年から始まった利上げでインフレ率は確かに鈍化基調となっており、景気も堅調さを保つことで、経済は緩やかな減速でソフトランディング(軟着陸)するシナリオを前提に株式市場は最高値圏で推移している、と大方解釈されています。イエレン米財務長官は、米経済がすでに軟着陸している、と勝利宣言もしました。たしかにインフレ率を下げるために景気後退が引き起こされることをハードランディング(硬着陸)と呼ぶならその可能性は以前よりも低くなっているとして良さそうです。ただ、多くの識者はまだインフレ率が2%目標に戻らないリスクは残っている。勝利宣言は時期尚早で、インフレ率が2%に戻るまでは軟着陸したとは言えないだろう、としています。滑走路が近づくにつれて安全な着陸ができるように見えるが、まだ飛行機が着陸したわけではない、というわけです。
昨年利上げが進んだ時期にも述べましたが、歴史的には利上げが景気後退をもたらすまでは2年程度のタイムラグが生じるのが一般的と言われています。とすれば今年の後半辺りからということになります。その意味で24年は多くの市場参加者が景気後退に陥ることを懸念していました。しかしその予測がとりあえず外れそうな状況がとなってきています。
ではなぜ予測が外れそうなのでしょうか。ある元米連邦準備理事会(FRB)副議長は次のように述べています。「いくつかの要因はあるが、ひとつは家計部門が予想よりはるかに多くの余剰貯蓄を抱えていたこと。次に多くの家計が超低金利の住宅ローンを組んでおり、住宅市場への影響が限られたこと。さらに財政赤字が1兆ドルも増加する好況下では異例の財政政策が実施されたこと、このようなことが挙げられる」。さらに、「インフレは更なる鈍化を見込んでいるが、インフレが粘着的で頑固であることが明らかになるリスクは付きまとう、ゆえに最近の金融市場は金利上昇を織り込んでいる」と述べています。
市場のコンセンサスである、今年の利下げは年3回、6月に開始するという、利下げ開始のタイミングが徐々に近づいてきています。ここにきてFRBが利下げ開始に向け、直近の雇用者数の大幅な増加をどのように判断するかが重要です。一部のFRBの高官は利下げの先送りを示唆し始めました。
もっとも利下げ時期が後ずれするかはまだはっきりしません。「強い雇用の伸び自体はインフレを懸念する理由にならない」「利下げを待つ理由にもならない」と述べたように、肝心のパウエル議長は3月の記者会見で慎重姿勢を示しています。
まるで謎かけのようなセリフですが、23年以降米国には大量の移民が押し寄せており、移民の大量流入を前提にすれば雇用者数の伸びが想定以上に大きくなる一方で、企業は賃金を抑えながら従業員も確保できるため、賃金上昇にブレーキがかかってインフレも徐々に落ち着く、というロジックもあります。パウエル議長はインフレに楽観的ですが、中東情勢の緊迫化も加わり、利下げの先送りを示唆する声も出始めています。11月の米大統領選挙も控え、難しい判断が迫られることだけは確かでしょう。
このように最高値圏で推移するも高値警戒感が消えない株式市場に対して、今後も金の投資妙味が増すとみる海外ファンド勢の買いが拡大しているようで、金価格の国際指標であるニューヨーク先物がこちらも最高値圏で推移しています。米利下げ期待に加え、中央銀行や個人の買いといった金需要の強さも相場を押し上げているのでしょう。
利下げ時期の開始については不透明性が高まっているものの、米景気の足取りが鈍くなって金利の引き下げが起これば、金利のつかない金に買いが入りやすくなります。さらに需給構造の変化による影響も指摘されています。その中心は中央銀行と言われます。中央銀行は金を外貨準備の代替通貨として保有し、長期で保有するのが一般的です。ロシアのウクライナ侵攻後、西側諸国はロシアへの経済制裁としてドル建て資産を凍結したことで、西側と距離を置く新興国を中心に米ドル保有から発行体がない「無国籍通貨」である金買いが加速しているというのです。さらに中国を筆頭に新興国ではそもそもインフレや経済不安、通貨安などを背景に、そのものに価値がある金を資産保全として保有する傾向が高いとされています。実際不動産不況に伴う経済不安や中国株の低迷で金買いの動きは高まってきました。
金価格も株式市場も過熱感を指摘する声がありますが、それぞれの投資の意味と需給の背景を考えて分散投資を継続することは合理的と思われます。
■ポートフォリオの戦略的配分について
■ディスクレーマー(ご留意事項等)
本資料は、投資判断の参考となる情報提供のみを目的として、ペレグリン・ウェルス・サービシズ株式会社(以下、当社)が独自に作成したものです。特定の銘柄について投資勧誘を目的にしたものではありません。本資料で言及しました銘柄や投資アイデアは、投資に関するご経験や知識、財産の状況及び投資目的が異なるすべてのお客様に一律適合するとは限りません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。本資料は、信頼できると判断した情報源からの情報に基づいて作成したものですが、正確性及び完全性を保証するものではありません。万一、本資料に基づいてお客様が損害を被ったとしても、当社および情報発信元は一切その責任を負うものではありません。また、本資料は著作権によって保護されており、無断で転用、複製または販売等を行うことは固く禁じます。
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